2007年12月16日日曜日

Al Gore's Nobel Prize Speech


ゴア氏のノーベル平和賞と地球温暖化防止バリ島会議

アメリカの前副大統領アル・ゴア氏がノーベル平和賞を受賞し、12月10日にノルウェーのオスロで授賞式が行われました。その時のスピーチの一部がニューヨークタイムズに掲載されていましたので、私にとって一番印象的だった部分を紹介いたします。

言うまでもなく、ゴア氏は2000年の大統領選挙でジョージ・W.ブッシュ氏に僅差で破れ、政界から去りました。その彼が失意の底で取り組んだのが地球の温暖化問題です。彼の書いた「不都合な真実」という本はベストセラーになり、その記録映画はアカデミー賞を受賞しました。彼の取り組んだ地球温暖化問題がそれほど世界の関心を集めている証拠です。

私も海が好きで、あちこちのリゾート地域を見て回りましたが、バリ島やタイのパタヤ、ホアヒンなどでも浸食されたビーチが消えつつあるのを目のあたりにしました。異常な天候や想像を超える洪水被害などは珍しくありません。今後とも水位の上昇が続ければ、水没する島や都市は数え切れないほどになり、たんに特定の国や地域の問題ではなく、地球規模の危機だと思わざるを得ません。

今ちょうどインドネシア・バリ島で国連主催の地球温暖化問題が討議されています。将来への道筋を示すロードマップとなる合意文書をめぐって各国がその利害をぶっつけ合っているようです。予想されたようにアメリカや中国、インド、日本など経済発展にブレーキをかけたくない経済大国の強引な横やりで、妥協点が見つかるかどうかが焦点です。

ブッシュ政権とは相容れないゴア氏もこのような結果は予測していたようで、彼の受賞スピーチは誰の助けも借りず自分で書いたという切り込みするどい迫力のあるものでした。以下はそのほんの一部ですが、できるだけ記事の原文で味わってみてください。

During the cold war, Mr. Gore said in the address, scientists used to warn of “nuclear winter” — the consequence of nuclear war, in which smoke and debris would block the sunlight from the atmosphere. Now, he said, “we are in danger of creating a permanent ‘carbon summer,’” in which pollution traps the heat that is normally radiated back out of the atmosphere.”

【語注】 address (speechと同意語で、動詞としても使う) atmosphere (大気圏)

“As the American poet Robert Frost wrote, ‘Some say the world will end in fire; some say in ice,’” Mr. Gore said. “Either, he notes, ‘would suffice.’” Now is the time, he said, “to make peace with the planet.”

【語注】either (どちらでも) suffice (十分な条件を満たす)

Mr. Gore added: “The future is knocking at our door right now. Make no mistake, the next generation will ask us one of two questions. Either they will ask, ‘What were you thinking; why didn’t you act?’ Or they will ask instead, ‘How did you find the moral courage to rise and successfully resolve a crisis that so many said was impossible to solve?’”

【語注】Make no mistake(「肝に銘じて忘れないで欲しい」という強い言い方)
either (この場合は、「・・・か又は・・・」の意味)
 
【訳文】
ゴア氏のスピーチによると、冷戦の時代には科学者たちは「核の冬」を警告していた。つまり、核戦争の結果、煙と塵灰が地球を覆い大気から太陽の光線を遮るからです。ところが今や、大気汚染が熱を閉じこめてしまい、普通なら大気圏から反射され逃がされるはずの熱がこもるため、恒久的な「炭素の夏」を造り出すという危機を迎えているのです。

「世界は火焔につつまれて終末を迎えるか、あるいは氷の中で終末を迎える」とゴア氏はアメリカの詩人ロバート・フロストを引用しながら、付け加える。「どちらであろうとも、地球の終末にはそれで十分なのです」。「今こそ、この惑星と和解する時期なのです」。

ゴア氏はさらに続ける。「未来が今わたしたちのドアをノックしているのです。肝に銘じて忘れてはいけません。次の世代はわれわれに次のどちらかの質問をしてきます。「あなたたちは何を考えていたの。なぜ行動を起こさなかったの?」 或いは、「どうやってあんな義憤と勇気を奮いだたせ、だれもが解決不可能だと思っていた危機的状況を克服できたのですか」

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右肩上がりの経済発展と地球規模の環境破壊のどちらかを選ぶかは、先進国や急速な発展を続ける中国やインドのような大国にとっては、簡単にはイエスやノーの答えは出せないのは理解できないわけではありません。彼らにはゴア氏はオオカミ少年のような“alarmist”に映るかもしれない。しかし、オオカミが世界各地で出没している事実は否定のしようがなく、その群れが本気で牙をむいて来てからではもうなすすべはない。われわれ個人としてはあまり大きく考える必要はない。それぞれが自分でできる範囲から行動を開始することだと思います。

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ここまで書いたところでバリ会議の最新ニュースが入ってきました。2012年で終了となる京都議定書以降の取り組みを決めるロードマップに反対していたアメリカ、中国、インドがやっと合意したのです。(このグループに属する日本は、相変わらず他国の顔色伺いで影が薄かったようです。)バン国連事務総長からは“This is just a beginning and not an ending.” という安堵の声ともとれる発言がありました。

その合意のきっかけは弱小国パプアニューギニア代表の挑戦的な発言でした。”The United States should either lead, follow or get out of the way.” (アメリカはリードするか、従うか、さもなければどいて欲しいのです。)会場のどよめきに似た賛同のざわめきを敏感に感じ取ったアメリカ代表ポーラ・ドブリアンスキー女史は、その5分後に次のような発言をしました。

“In this, the United States is very committed to this effort and just wants to really ensure we all act together. We will go forward and join consensus.” (この努力にはアメリカもコミットしており、参加国全員が協同歩調をとることを確認したいと願っています。アメリカは一歩前進し合意に賛同します。)

各国の利害が対立するだけにジェットコースターみたいな目の廻る交渉で、2009年末までの最終合意にむけて今後とも延々と続きます。一見われわれには縁遠いようなテーマかも知れませんが、いざ身近に感じられるようになったらその時はすでに、「不都合な真実」という大変な事態に直面しているのだという覚悟を持たなくてはならないと思います。

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2007年もあまり良い年ではなかったみたいですね。来年は新しい秩序に向けてなにか大きな変化の起こる年ではないかと思います。

GOOD LUCK TO YOU ALL!